DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
親父におれの号令《コマンド》は届かない。
姉貴にも効かなかった。
どんな金持ちの資本家でも、おれが一言命じるだけで札束でもクレカでも出してくれるってのに、おれは親父を屈服させることができない。
むしろ、おれのほうが親父の言いなりだった。
ガキのころはそんなんだった。
自由をくれたのは、姉貴。
一緒に行こうって、遠くへ連れていってくれて、おれと姉貴と二人だけで生きた。
アパルトマンの薄暗い部屋に閉じこもって、息のできない場所に溺れていくような、盲目的な幸せだった。
それでいいと思った。
なのに、たった一年だ。
自由で孤独な逃亡生活は、いきなり終わりを告げた。
硬い地面の上に、おれだけ引き上げられてしまった。
何でおれはここにいるんだ。
どうせくだらない人生しかこの先に残ってないんなら、感情なんか捨て去って、親父の道具に成り下がるほうが気楽なのかな。