DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
薄暗い路地に海牙の後ろ姿が消えたところで、はたと、姉貴が手を打った。
「本屋、あっちじゃないでしょ。方角が正反対よ」
「ほんとだ~。あいつ、実はけっこうドジっ子? 方向音痴って言われてたの、ガチ情報だったの?」
視界を銀色がよぎっていった。
煥だ。肩越しに振り返る横顔は、まなざしがひどく鋭い。
「追い掛ける。何かイヤな予感がする」
煥は言い捨てて、駆け出した。
足がめちゃくちゃ速い。
たちまち後ろ姿が遠ざかっていく。
その背中に引き寄せられるように、気付いたら、おれも走り出していた。
イヤな予感。
そう。
煥の口からそう聞いた瞬間、おれもそれを察知した。
首筋の毛が逆立つような、寒気にも似たザワザワを感じる。