DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
【克明な未来予知というのは、また別の才能、あるいは異次元のチカラなのだろうな。
私にできるのは、せいぜい、猫が箱に入っているという事実を述べる程度だ。
箱の中の猫が生きているのか死んでいるのか、事が起こるまでは、私も知ることができない】
海牙が不満げに言葉を挟んだ。
「シュレーディンガーの猫。量子論の有名な思考実験ですね。例え話としてよく使われますが、
あの思考実験は粒子というものの性質に依拠するからこそ、生きている状態と死んでいる状態が一対一で重なり合うのであって、それと未来予知はまた別でしょう?」
ふっと、総統が微笑んだ。
改めて見れば、総統は、半世紀前の邦画の俳優みたいなイケオジだ。
しわがずるい。白髪の交じり具合も渋い。
うちの親父みたいなケバさやチャラさやイキってる感じが全然なくて、ごくごくナチュラルにカッケーおっさんだ。
なんてことを考えてたら、総統がこっちを見て、またちょっと笑った。