DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
無遠慮な電子音声が、息を詰めるおれたちの耳をざらざらと刺激した。
〈平井鉄真に告げる〉
いきなり呼ばれたその名前は、総統のことだ。
反応を測るような間が落ちる。
総統が、震える声を絞り出す。
「何の用だ?」
電子音声が応える。
〈おまえの娘、平井さよ子を預かっている。今日、午前四時十二分、身柄を拘束した〉
「さよ子は無事なのか?」
〈娘の命が惜しくば、平井鉄真が不当に収集し、保持している宝珠と引き換えにせよ〉
さよ子と宝珠の交換。それが誘拐の目的。
総統は目を閉じて仰向いて、ああ、と大きく息をついた。
畳がまた波打った。
今度は部屋ごとハッキリと揺れて、天井の梁《はり》が軋《きし》む音も聞こえた。