DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
おれは、例えて言えば、総統っていう巨人のバカデカい手につかまれたような状態だから、目の前にある巨大な顔がどんな表情を浮かべてんのかとか、握りつぶさない程度に力加減する余裕があるかどうかとか、ダイレクトに感じられる。
余裕、ないでやんの。
いいよ、別に。無理して答えなくていいって。
おれだって、ここでぺしゃんこにされたいわけじゃねーし。
おっちゃん、とりあえず落ち着けよ。
スマホの電波はしつこく届き続けている。
あの悪趣味なメッセージがまだ繰り返されている。
〈娘の命が惜しくば、平井鉄真が不当に収集し、保持している宝珠と引き換えにせよ〉
いきなりだった。
波打つ畳に弾き飛ばされて転がってきたスマホを、姉貴がつかんだ。
淡いピンク色に塗られた爪が、画面に照らされてキレイに光った。