DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―


重苦しいチカラに押さえ付けられて身動きすらろくにできない中で、姉貴は、腹の底から振り絞るように懸命で強靭《きょうじん》な声を、スマホにぶつけた。



「そこにいるんでしょう?」



鳴りやまない電子音声。娘の命が惜しくば。


姉貴はスマホを顔に近付けて、それが憎むべき敵であるかのようににらみ付けて、声を大きくする。



「そこにいて聞いてんでしょう? 何考えてんの? 見境とか、ないの? 誰に手を出してんのよ!

何度も海牙くんの玄獣珠を奪おうとして、今度は預かり手でもないさよ子ちゃんを誘拐して! それが人の親のすること? 教育者のすることなの? ねえっ!」



姉貴の声が、飾り彫りの天井に反響した。


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