DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
それ以外の音がないことに気が付いた。
総統が自分を抑え切れずに立てていた地響きも、スマホから無機的に流れて続けていた電子音声も、ない。
静まり返っている。誰かが呼吸する音が聞こえる。
スマホが雑音交じりに告げた。
〈時間がない。願いがある。叶えねばならない。何に代えても〉
男の声がそれだけ言って、あらかじめ作ってあったんだろう電子音声のメッセージに再び切り替わる。
〈本日正午、もう一度、平井鉄真に連絡する。そのときまでに宝珠を用意せよ。こちらの要求に応じない場合は、本日午後三時、娘に苦痛を与える〉
ブツンと、通話が途絶えた。