DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
「あ、行っちゃうんだ? そんな怖がんないでよ」
「いえあの怖がってるとかじゃないので、ほんとに! でもえっと、約束あるので、すみませんっ」
女の子はペコリと頭を下げてから立ち上がって、もう一回ペコリと頭を下げた。
元気よくひるがえったサラサラの黒髪から、ふわりと甘い匂いがした。
彼女は真っ赤な顔を上げもせずに、走っていってしまった。
「チカラある血を引く者、か?」
あの子自身からは何も感じなかったけど。
調べてみよう。あの子の素性。
おもしれーじゃん。
号令《コマンド》で言いなりにすることができない女って、姉貴しかいなかったのにさ。
チカラが効かない上に、ほかに好きな人がいる。
あんな子を落とせたら、おれって本物じゃん?
おれは、そっと笑った。