DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
肩をつかまれた。
文徳《ふみのり》がおれの目をのぞき込もうとする。
「理仁《りひと》!」
おれは、どこでもない斜めを向いて、へらへら笑いの仮面を外さない。
「何だよ?」
「笑うな」
「どーして? 笑えるじゃん」
「笑えない。おまえ、そこは笑うところじゃない。笑うな」
文徳はおれの両方の肩をガッチリとつかんで、揺さぶった。
視界の端に、ギターだこのある大きな手。
いつの間にかおれより体格がよくなっていた文徳の手は、きっと、おれがちょっと身じろぎしたくらいでは振りほどけない。
反射的に声が出た。
【放せよ】
他人に命じるための、チカラある声。
一瞬、文徳の手がピクリとして、すぐにそれまで以上の力が込められた。