DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
二幕:乱闘_a_free_fight
「妙なことが起こんなきゃいいけど?」
夕暮れの駅前の雑踏の中で音楽が始まった。
真っ当なロックンロールだ。
質のいい、ストレートな響きの、音楽らしい音楽。
「腕、上げたじゃん。もともと文徳《ふみのり》のギター、すげーうまかったけどさ~」
バンドマスターはおれの友達。伊呂波《いろは》文徳。
生まれて初めて、友達って呼んでやっていいなって思えた相手だ。
何をするときよりも楽しそうな顔で、文徳はギターを弾いてる。
心地よいエイトビート。吹っ切れたような疾走感。
ときどきギュンッと激しくひずませるのがアクセントになって、オーディエンスを油断させない。
文徳は、両手の人差し指の爪がペールブルーの胞珠だ。
外灯の下でギターを弾いてると、爪に光がキラキラ反射して、何か妙にアーティスティックでカッコいい。
いや、まあ、爪の胞珠みたいにピンポイントなキラキラがなくったって、文徳は際立ってんだけどね。
おれから見ても、やっぱカッコいいもん。特に、演奏してるときは。