DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
姉貴は、おれには何も言わずにアイコンタクトだけ送ってきた。
それでおれには十分。姉貴が考えてること、伝わってくる。
あいつとの対決、今回はあんたの番よ、って。
あんたに本番を任せるわ、って。
親父は無表情で、さよ子が救出されていく様子を眺めている。
脳ミソ沸いてんのかな、こいつ。
やること為すこと、毎度毎度、一つも理解できやしねえ。
おれは親父を呼ぼうとして口を開いて、一回やめた。
最後に親父に向けて呼び掛けたのって、いつだったっけ?
昔は「パパ」とか「おとうさん」って呼んでたと思うけど。
できるもんか。そんなまともな呼び方。
「長江孝興サン。あんたがほしいのは、こいつだろ?」
おれは、嫌がる朱獣珠をシャツの下から引っ張り出した。
シルバーチェーンの先で、朱獣珠はせわしなく明滅を繰り返す。