DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
親父の目に光が戻った。口元に笑みが戻った。
親父はおれのほうに右手を伸ばして、嬉しそうに顔を輝かせた。
「いい子だ、理仁。私にはそれが必要でね。最初からそうやって素直に渡してくれればよかったのに、とんだ手間をかけてしまったじゃないか。さあ、渡しなさい」
親父はにこやかに近付いてくる。
差し伸ばされたままの右手、オーダーメイドの指輪、ダイヤと珊瑚のカフスボタン。
あの手が、おれの大事な小さな友達をたくさん死なせた。
あの手がつかむ名誉と富のために、失われるべきでないもの、壊されるはずのなかったものが、次々と奪われていった。
一瞬で口の中がカラカラに渇く。
恐怖と嫌悪感と、父親に逆らうことへの本能的な苦痛と、あと何だっけ?
とにかく、何かすげーしんどくて、背筋がブルブル震えてて。
クソ、ふざけんな。
やるって決めたじゃねぇか。