DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―


淡い青色が視界にふわっと広がって、頼りないほど柔らかな体温がおれを包んだ。


さよ子が体をかがめて、立ち上がれないおれを優しく抱きしめている。


おれの耳元でさよ子がささやいた。



「迷惑かけてごめんなさい。助けてくれてありがとうございます。だから、わたし、代わりに何か役に立てませんか? わたしにできること、ないですか?」



こんなふうに抱きしめられるの、何ていうか、なつかしいな。


小学生のころ、おかあさんが、割としょっちゅう、こんな感じで。



恥ずかしいからやめろよって言っちゃったんだよな。小五のころ。


おかあさんは「わかった」って答えた。



それでしばらくハグなんてなかったんだけど、小学校の卒業式の後、おかあさんは「これで最後だから」って、久しぶりにおれを抱きしめた。


おれのほうが背が高くなってたから、何か変だった。


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