DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―


反射的に、おれは体をこわばらせた。


さよ子はおれの涙を細い指で拭って、おれの目を見て微笑んで、おれの頭をそっと撫でた。



「大丈夫ですよ、理仁先輩。心配しないで」



甘く溶けるキャンディみたいな声が優しくささやいたと思うと、みるみるうちに、さよ子の髪からつややかな黒さが失われていく。



おれは言葉が出なかった。


持ってっていい、って。差し出したのは、あのキレイな髪?



さよ子は両方の頬にえくぼを刻んでみせた。



「ちょっとヘアスタイルを変えないと、さすがに目立っちゃいますよね」



色白で華奢で黒い目が印象的な美少女の頭に乗っかっているのは今や、パサパサに縮れた白髪だ。


なんて無残なんだろう。あまりにも不似合いだ。


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