DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
ぐすぐすしているさよ子の頭をポンと一つ、軽く叩いた。
さよ子の手からフォークを奪って、大事そうに残されていたショートケーキの苺《いちご》を、クリームごとすくい取る。
「はい、あーん」
ニコニコしながら苺を差し出してやると、さよ子は膨れっ面をしてから食い付いてきた。
タイミングを合わせて、ひょいとフォークを引く。
空振りしたさよ子が、ますます膨れっ面になる。
「今の、すっごいムカつくんですけどっ」
「ごめんごめん」
さよ子は、フォークを持つおれの手をつかんで、今度こそ苺を口の中につかまえた。
ほらね、この手だよ。
細くてしなやかで柔らかい。
こういうさりげない柔らかさにね、男はドキッとしちゃうんだ。