DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
煥が表情を変えた。
薄い唇が弧を描いて、見下すような微笑。
「オレを狩ろうなんて身の程知らず、一瞬で返り討ちにしてやるよ」
男のおれでさえゾッとするほど、煥の危険な笑みは色気があった。
血に飢えているみたいだ。銀髪の悪魔という二つ名が、すとんと理解できた。
ふと。
ひどく騒々しいエンジン音が鼓膜に引っ掛かった。
こっちに向かってくる、排気量の大きな車の音。指向性があるように感じる。
こういうときのおれの勘は、だいたい当たる。
「何か来るよ」
おれがつぶやくのと、煥が首を巡らせるのと、ほぼ同時。
ひと呼吸ぶんの間が空いて、そして、駅前広場にヘッドライトが躍り込んでくる。
黒い車だ。特殊なガラスで、車内が見えない。
ナンバープレートはなかった。
鼻の長いフォルムから推測するに、スピード自慢の高級外車だ。
さよ子が体をこわばらせた。