DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―


バンドの取り巻きの不良どもが一足先に暴れ出している。


特に親しい仲間でない相手は、全部が敵。


恨みや害のない相手だろうが、おかまいなし。


野蛮な声を上げながら、乱闘が始まる。



バカバカしいけど、これがこの世界の日常だ。


戦闘的な熱狂ほど簡単に増幅されて伝播する感情は、ほかにない。


人が集まって興奮の度がちょっと過ぎるだけで、止めようもない暴動に発展する。



自分の身を守れるのは、自分だけ。



【こっち来んなよ。おれには手ぇ出すな】



おれは号令《コマンド》を発動して、乱闘を遠ざける。



鈴蘭がさよ子の手を引いて、おれのそばに寄った。


ここにいれば安全だと直感的に理解したんだろう。



おれは女の子ふたりに笑ってみせる。



「今の号令《コマンド》、雑魚《ざこ》にしか効かないよ?」



鈴蘭がちゃっかりと微笑む。



「厄介な人たちからは、煥先輩が守ってくれますから」



ほら、と鈴蘭が指差す先で異次元の戦闘が始まっている。


< 50 / 405 >

この作品をシェア

pagetop