DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
バンドの取り巻きの不良どもが一足先に暴れ出している。
特に親しい仲間でない相手は、全部が敵。
恨みや害のない相手だろうが、おかまいなし。
野蛮な声を上げながら、乱闘が始まる。
バカバカしいけど、これがこの世界の日常だ。
戦闘的な熱狂ほど簡単に増幅されて伝播する感情は、ほかにない。
人が集まって興奮の度がちょっと過ぎるだけで、止めようもない暴動に発展する。
自分の身を守れるのは、自分だけ。
【こっち来んなよ。おれには手ぇ出すな】
おれは号令《コマンド》を発動して、乱闘を遠ざける。
鈴蘭がさよ子の手を引いて、おれのそばに寄った。
ここにいれば安全だと直感的に理解したんだろう。
おれは女の子ふたりに笑ってみせる。
「今の号令《コマンド》、雑魚《ざこ》にしか効かないよ?」
鈴蘭がちゃっかりと微笑む。
「厄介な人たちからは、煥先輩が守ってくれますから」
ほら、と鈴蘭が指差す先で異次元の戦闘が始まっている。