DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
カイガと呼ばれたそいつが一瞬、動きを止めた。
一瞬の隙を、煥は見逃さなかった。
シュッと鳴った拳がカイガの顔を狙う。
「おっと」
カイガはバランスを崩しつつ煥の拳を避けて、地面に手を突いて鮮やかに後転した。
何かの弾みで、フードが外れる。
肩に掛かる長さのウェーブした黒髪が広がった。
額いっぱいに、つやめく漆黒がある。
おれや煥、鈴蘭と同じだ。巨大な胞珠。
それを持つからこその、あの身のこなしなんだろう。
さよ子はカイガと煥を交互に見つめて言った。
「いつもいつも、そんなやり方ばっかり。思いどおりに事を運ぶために、みんなそうやって戦うんですよね。何でそうなっちゃうんです?」
煥は、鼻で笑う表情を浮かべて、そっぽを向いた。
カイガもまた嘲笑う表情で、さよ子に答えた。