DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
鈴蘭は甲斐甲斐しく、煥のほうへ飛んでいった。
「煥先輩、ケガしてます。右のほっぺた、あざになって、ちょっと血も出てますよ。わたし、治しますね」
言うが早いか、鈴蘭は腕を伸ばして、煥の頬を手のひらで包んだ。
鈴蘭の手のひらから、じわりと青い光が染み出す。
鈴蘭の額の胞珠が明るく輝く。
「あれがあの子のチカラってわけ?」
鈴蘭は少し眉をしかめている。痛みをこらえるかのように。
さよ子が肩を落として、おれに言った。
「見てのとおり、鈴蘭は傷を治すことができるんです。治すべき傷の痛みを引き受けて我慢して、跡形もなくしてしまう。
三日前なんて、煥先輩の骨折を治しちゃったんですよ。痛みでボロボロ泣きながら」
「へ~、けなげなもんだね」
「ですよね。だから、煥先輩、鈴蘭のこと気に入ってる。わたし、完璧に出遅れちゃいました」