DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
一幕:帰国_return
「ねえ、姉貴を殺したの、あいつ?」
十二時間のフライトはつつがなく終了した。
おれは窓際の座席に着いたまま、他人を突き飛ばしながら我先に降りていくあわてんぼうたちを見送った。
だらだらぞろぞろと、くたびれた顔の人々がそれに続く。
ギリギリおねえさんと呼べなくもないキャビンアテンダントのおばさんが、窓際から動かないおれに、じろりと横目を向けた。
何でガキが一人でこの便に乗ってるんだ、って?
エコノミークラスとはいえ、いちばんお高い航空会社のフライトだもんね。
ずっと帽子かぶってアイマスクして食事も全部無視してたから、おばさんはおれが未成年ってことに気付かなかったんだろう。
まあ、フランス人の感覚からすれば、日本人なんてみんな未成年みたいな顔してるもんらしいけど。
おれは正真正銘の未成年だ。
十七歳。まだ学籍も死んでないみたいだから、襄陽《じょうよう》学園高校の三年生に進学したばっかりってことになる。