DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
何でおれなんだ? どうしておれが疑われてんだ?
文徳がまた一歩、前に出た。おれを守るように腕を広げて立つ。
「納得もできないし、理解ができない状況だ。きみのあせりは察するが、もっときちんと説明を……」
車の窓が開いた。黒光りするものが見えた。
おれの全身に鳥肌が立った。
ターン! と、聞き慣れた音が鳴った。
言葉を止めた文徳が、ゆっくりと揺らいで、倒れた。
頭をかばうでもなく、重力に引かれるままに、ひび割れたアスファルトの上に仰向けになった。
「兄貴……?」
煥が地面に膝を突いて、文徳の体を揺さぶった。
文徳は応えない。目を見開いて死んでいる。
車の中から、震えるような声が聞こえた。
「海牙、本当に時間がないぞ」と。
窓に特殊な加工がしてあったんだろうか。
それとも、タイムリミットが近付いたせいなんだろうか。
猛烈なチカラの気配が車の中にあることに、おれは初めて気が付いた。