DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
自然と足が止まってしまった。
おれは自分の手を見る。顔が歪むのがわかる。
「お客さま《ムッシュウ》……」
おばさんがまた何か言いかけた。
【黙ってろ。どっか行けよ】
おれはおばさんの目をのぞき込んで命じた。
くすんだ緑色の目は、左の瞳が胞珠《ほうじゅ》だ。
おばさんは抵抗の術《すべ》もなく、口をつぐんで後ずさる。
頭痛がこめかみを突き抜けた。
額の胞珠が痛みの発生源で、割れそうなくらいガンガンする。
反射的に顔をしかめた。おれは帽子のつばを深く下ろした。
ちょっとチカラを使うだけで凄まじく消耗するのは、ろくに眠れないせいだ。
姉貴が血まみれになって死んでからずっと、この疲労感や頭痛や吐き気やめまいにやられている。