DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―
総統、と海牙に呼ばれた男は、自分の手のひらを見た。
両方を見たかったんだろうけど、あいにく右腕がない。
左手を見て、右の空虚を見て、首をかしげて、凄まじい圧力の思念の声でつぶやく。
【足りない。取り戻さなければ。因果の天秤に、均衡を】
たぶんそう言った。
最後までハッキリとは聞き取れなかった。
ぐずぐずと壊れ始めた。
総統の足下の地面が、ずぶずぶと沈下していく。
総統の全身の胞珠がくすみ出して、砂のようなざらざらが混じる。
海牙が切羽詰まった表情で叫んだ。
「ここから離れてください! もうダメだ。巻き込まれる前に早く!」
煥の首を抱いた鈴蘭が顔を上げた。
「何が起こるの?」
「俗に言うダンジョンですよ。呑まれたくなかったら、逃げ……」
警告は遅すぎた。
アスファルトが波打ってひび割れたと思うと、おれたちは、空洞になった地底に引き込まれる。
荒れ狂うチカラの暴風に揉みくちゃにされて、意識が飛んだ。