大好きな先輩は隠れ御曹司でした
実際、「格好いい」と「可愛い」の両方の言葉で賛美されていた。
本人は「男で可愛いなんて言われるの嫌だよ」と不服そうだったけれど。

「その美貌をほぼお手入れなしで維持出来るんだもんなー」

肉じゃが用の玉ねぎを切りながら、光希の独り言は続く。今日久しぶりに至近距離で見て、改めて「綺麗な顔だな」と思ったのだ。勿論、本人には言わなかったけれど。

「言ったら拗ねるし……」

と、言いながらしばらく前の会話を思い出して、一人で赤面した。あの美形に「光希の方がずっと可愛いに決まってるでしょ」と真顔で力説されるのはある意味、罰ゲームだ。しかも本人はそれを心の底から信じているから、さらにタチが悪い。

少し癖のある黒髪はまとめやすい長さでいつも一つに縛っただけだし、折角の二重も面倒くささに負けてきちんとアイメイクをしないから宝の持ち腐れだ。唯一、骨格のせいか口角が上がって見えるおかげで無愛想と評されないのが自分の顔のお気に入りポイントだ。
全体に小作りで地味な印象を与える光希の顔のどこをどう見たら「可愛い」と思えるのか。

今でも不思議だけど「ブスは三日で見慣れる」に近い感覚だろう、と勝手に納得している。
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