大好きな先輩は隠れ御曹司でした
ナメコの入ったお味噌汁に豆腐を落としながら、呟く。

だって恋愛感情なんて持ったら、会話すら出来なくなると思ってたから。芽吹きそうな小さな乙女心に頑丈に鍵を掛けて、知らんぷりして過ごしていたのだ。
それをいきなり、強引に鍵を開けられて心を掻き乱されたのだ。テンパらない方がおかしい。

そのまま岡澤のペースに乗せられて、お付き合いも六年目。
戸惑いながらもいつの間にやらズブズブと岡澤に溺れてしまった。

岡澤が自身の入った会社を自慢する言葉に勝手に洗脳されて、追い掛けるように入社した時には光希も自分の傾倒っぷりが恐ろしくなったものだ。

このまま岡澤に溺れきってしまったら?別れる事になった時に自分は立ってられるんだろうか?

だから保険をかけた。

手堅く、冒険しない生き方の光希にとって、岡澤との恋愛は幸せ過ぎて不安だったから。

そう思うと『地味で堅実』と暗に光希を評価した国際営業部のキラキラ女子は意外と鋭かったな、と感心しながら出汁巻き玉子を焼く。


岡澤が帰ってくるまで、もう少しだ。


< 16 / 148 >

この作品をシェア

pagetop