大好きな先輩は隠れ御曹司でした
だから保険をかけた。ない『壁』を無理やり作った。
フラれた時に少しでもダメージを少なくするために。


会社では付き合っている事を内緒にする。バレないように名前では呼ばない。


付き合いをオープンにする気だった岡澤には、光希の入社時「新入社員が社内恋愛なんて生意気に思われて、女子社員の先輩に嫌われると困る」と説明したが、すんなり頷いてはくれなかった。

でも、これから社会人になる光希の不安が少しでも消せるなら、と本音は不本意だった岡澤も最後には渋々納得してくれたのだ。

自分の劣等感に付き合わせて申し訳ない、と光希も思ってはいる。特に付き合う期間が長くなった最近は。

「でもなー……、このまま『先輩』っていうのも、先々困ると思うけどなー」

でも、将来を匂わせるような岡澤の言葉にも、まだ素直な反応は返せない。

今も髪を撫でながら、聞こえなかったフリでゆっくりと眼を閉じる。

もう少しだけ待って欲しいと、弱虫な心で思いながら。
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