大好きな先輩は隠れ御曹司でした
キッチンから洗濯物を出す岡澤の背中を見ながら、光希はさっきの会話を思い出していた。

「遠距離恋愛なんて寂しい」と泣けば可愛げがあっただろうか。それとも「一緒に行きたい」と言えば喜んでくれただろうか。

でも光希にはどちらも言えなかった。

岡澤の家族の話を聞く前なら言えたかもしれない、と小さく息を吐く。

そのまま食事の準備を続ける光希に、思い出したと岡澤が声をかける。

「明後日の日曜、ちょっと用事があるから出かけるよ」

「日曜日かぁ。何時くらい?」

「んー、昼過ぎには家を出るかな。光希、どうする?待っててくれる?」

「午後いないんだったら、私もそのタイミングて帰ろっかな。月曜日、早めに出勤したいし」

あっさりとした光希の返事に、岡澤はわざとらしくガックリと項垂れる。
< 70 / 148 >

この作品をシェア

pagetop