傷だらけの君は


「......あいつは今、高熱に苦しんでいる」


「......だから?」


この男、まだ分からないのか。


どれだけろくでなしでも、あの娘の父親だろう。


それなのに一切表情を変えないこいつは果たして今、その取るに足らない頭で何を考えているんだ。


俺はふつふつと込み上げてくる憤りを抑えながら、男から手を離す。



「迎えに来てやってくれないか。あんたが来たらあいつも喜ぶだろう」


殴られるとでも思ったのか身構えていた男が拍子抜けしたように首を前に突き出した。



「まさかお前、新選組の副長さんよ。それだけのためにこんな町外れまで来たっていうのか?」


「そうだと言ったらどうする」


「行きゃしねぇよ面倒臭い。ああ、でもはやく帰ってこいって言っといてくれ。多少熱が下がってなくても一発殴っときゃ素直に従うさ。ったくよぉ、ただでさえ仕事が溜まってんのに」


俺も大概屑だが、こいつは本物の屑だな。


拳を振り上げ、振り下ろす仕草を何度も繰り返す男は、目に見えない娘を殴っているつもりなのだろうか。


無駄に図体のでかいこいつの拳はそれなりに重いはずだ。


もし、あの娘が日頃からこの力で殴られているのだとしたら......


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