傷だらけの君は
散々屑を脅しきったあと屯所へと帰ってきた俺は、ふと気になって総司の部屋に行くと、そこに居たのは紅だけだった。
あれから起きたのかずっと寝ているのか分からないが、今もうなされていることだけは確かだ。
部屋の真ん中に敷かれた布団はえらく小さく見えた。
まあこの部屋が殺風景なこともあるが。
布団の傍に腰を下ろし、その顔を見つめる。
「......似てなくてよかったな」
あの屑に似ていたら大変なことになっていたに違いない。
聞けばこいつはまだ、自分が拾われたということを知らないらしい。
つまりあの人でなしを本当の父親だと思っているということだ。
......俺から伝えるべきなのか、黙っておいたほうがいいのだろうか。
むしゃくしゃするから、とりあえずあの屑の本性は包み隠さず話してやろう。
一刻も早く嫌われてしまえクソ野郎。
「......まあお前は、俺がなんと言おうとあいつを嫌うことはないんだろうな」
紅の形のいい唇から嗚咽が漏れる。
寝ているとき、この娘が必ずと言っていいほど口にしている言葉を聞くのはもう何度目だろう。
「......とうさ......おとう、さん......ぐすっ」
......もう、お前が夢の中でどれだけ父親を呼んでも、迎えに来てくれることはねぇんだよ。
「さて、これからどうすっかな」
なにせこの女子を引き取るつもりはなく、全くの無計画である。
やはり俺が憎まれ役を買ったほうが、紅にとっては原動力になるのだろうか。