傷だらけの君は
「こんにちは」
「おや紅ちゃん。ひさしぶりだねぇ」
あたしが入ったのは甘味処だった。
のれんをくぐると、気付いた雪さんがすぐに声をかけてくれる。
いつしか行きつけになったこの店で、女店主の雪さんに顔を覚えてもらっていた。
新選組であることも知っていて、たびたび気にかけてくれている。
「ちょっと色々ありまして」
「そういや最近池田屋で一悶着あったらしいね。それが原因かい?」
「あはは、まぁ……」
「紅ちゃんが無事で本当に良かったよ。こき使われてるみたいだからさぁ」
あそこは男しかいないからね、なにかあったらすぐうちに来なよ。
なんて言ってくれたこともあったっけ。
もちろん、あたしの力については話していない。
あたしの力のことを知っている人は多いけど、そこにあたしの顔を結びつける人はあまりいなかった。
つまり自ら力のことを話さなければ、傷を治しているのがあたしだって気付かない人がほとんどだった。
例外はあるけど、本当に一部だけだから。
ぼろを出さなければバレない、“化け物”だって言われない。
だから、雪さんには知られたくなかった。