傷だらけの君は
「転んじゃったの?」
男の子が目にいっぱい涙をためて女の人に頷き返す。
そして泣かないよって鼻をすすった。
「偉いね。僕は一人?お母さんは?」
「ちづちゃんが熱だしたから、お母さんもお留守番してるんだ。
だから僕が、はやくかえってあげないと……」
男の子の近くには、大根や葱、生姜が落ちていた。
「そっか。僕、名前は?」
「圭太……」
「圭太くん、いいお兄ちゃんね。
……すこし目を閉じていてくれるかな?」
その女の人の言うとおりに男の子の目から我慢していた大粒の涙がこぼれ落ちる。
女の人はくすりと微笑むように目を細めて、それをぬぐった。
腕の怪我の具合を確認して、深呼吸をするように天を仰いだ女の人はその手をかざした。
……男の子の、擦りむいている腕に。
「……嘘」
まさか、そんなことあるはずがない。
次の瞬間には、男の子の腕の傷が消え去っていた。