傷だらけの君は
「やっぱり……」
女の人が腕を振りほどこうとしても、あたしはつかむ手を緩めない。
疑いが確信に変わっていくのにまだ心がついていかなかった。
あたし自身、こんな行動ができたことに驚いた。
絶対に離すまいと掴んでいた腕から、手のひらへと移った。
両手でぎゅっと握りしめた。
だって、だって……
こうでもしないと、また置いて行かれるから……
きっと泣きそうな顔になっていたんだろう、逃れようとする力が少し弱まった。
「あなた、どちら様?」
“どちら様”
その言葉が他人のことを指すくらい、あたしでも知ってる。
だけど、もし他人じゃないとしたら?
あなたをずっと探してたって言ったら?
「あたしは紅です」
「……え」
女の人の顔つきが変わった。
まるでその名前に覚えがあるみたいに、大きく目を開いて。
震えていたのはあたしの手か、それとも……
「絶対に目を離さないでください」
「あなた、なにして……」
言葉が続けられることはなかった。
自分の腕の怪我が一瞬にして治ったこと、そしてそれがあたしの腕に移ってることを知ってしまったから。