傷だらけの君は
やだ、やだよ。
「おいていかないでっ……あたし、お母さんに話したいこといっぱいあるのに」
あたしはかざそうとした手を、直前で止めた。
何が原因か分からなかったから、どこを治せばいいか分からなかったからどうすることもできなかった。
それでも力を使おうとしたあたしを、お母さんは分かっていたかのように言う。
「だめよ、絶対に使っちゃだめ。それにもう手遅れ」
「でも……!」
「……この怪我は移せないはずよ。自分自身が直接的に死に至るようなものは治せない。それはあなたもよく分かっているでしょう?
たとえうつしたところで私の内臓はぼろぼろで、治りきらない。
あなたまで死んでしまうわ」
初めて自分の力を恨んだ。
なんで治せないんだって。
こんなときに役に立たないなら、こんな力いらない。
お母さんの命を奪ってしまう、この力が憎くて仕方がなかった。
その間にもお母さんの顔からは色が失われていく。
雪のように白かった肌は、今じゃもう透けてしまいそうなほどで。
血が、真っ赤な鮮血がより存在感を増す。
「紅」
お母さんは微笑んでいた。
あれほど見たかったお母さんの笑顔なのに、今度はあたしが泣いている。
「いい人たちに出会えたね」
「っ、」