傷だらけの君は
玖ノ巻




「紅」


「ひっ」


あたしが土方さんに呼ばれたのは、お月様も星もない宵闇のこと。


羽織のほつれを縁側で直していたらどうやらずっと後ろに立っていたらしい。


全然気付かなくて、いきなり声をかけられたからちょっと飛び跳ねてしまった。



「な、なんですか。まだ起きてらしたんですね」


びっくりした。人ってこうも気配を消せるものなの。


まだ心臓がどきどきしてるのに、土方さんはまるで気配を消す気はなかったと言うように「すまん」とだけ言った。




「お前、暗いのによく針仕事なんかできるな」


「夜目が利くんです」



昔から、なぜか。


たぶん順応力ってやつなんだろう。

でないと生きていけないって、あたしの本能がそうさせたに違いない。



あと、あたしが針仕事をしているって分かった土方さんもかなり目がいいと思うけど。


たぶん土方さんだけじゃなくて沖田さんや近藤さん、他の人たちも慣れているんだろう。



土方さんはそうか、と言ったきり黙り込んでしまった。


あれ、あたしになにか用があったんじゃないのかな。


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