傷だらけの君は
いつになく真剣な顔だから、あたしも手を止めて言葉の続きを待つ。
「俺はお前が嫌いだった」
……ん?
「笑わない、泣かない、自分の気持ちを一切言わない。こんなやつがあるか?化け物じみた精神力で、文句一つ言わずここで働くお前がどうしても好きになれなかった」
「化け物じみた精神力……」
隣に座った土方さんの口からぽんぽん飛び出すのはそんな言葉ばかり。
「痛いとも言わないし、助けてとも言わない。
俺に押し倒されても眉一つ動かさない女はてめぇが初めてだったわ」
「あ、ありがとうございます」
「褒めてねぇっつーの」
そこでようやく、土方さんが口を閉ざした。
このまま言われっぱなしなのだろうか。
ここへ来て、もうずいぶんと月日が流れた。
いつだったか、池田屋事件で新選組の名が天下に知れ渡って。
いいことも悪いこともたくさんあったっけ。
出会いや別れを繰り返して、あたしが涙を流した回数も少なくはなかった。
だけどそんな日々を乗り越えて、あたしたちは今ここにいる。
「迷ってんだよ」
「へ?」
「自分の心にはいつだって正直に生きてきた。……なあ、紅。
お前は俺がどんな判断をしても、それを受け入れてくれるか」
……迷ってる人の顔つきには見えないんだけどな。
土方さんの中ではもうすでに答えは出ていて、あとはあたしが頷くのを待っているだけ。
そんなふうにも見えた。