傷だらけの君は


井戸でくみ上げた水を桶に移す。


この動作をする回数は前よりもずっと増えた。


それが意味するのは、きっと言わなくても分かるだろう。


あいかわらず緊迫した屯所のなかを、あたしは進んでいく。



殺伐としたこの空間で、もはやあたしに声をかける人なんていなかった。


少しでも刀に不備が見つかったら、体調が優れていなかったら……死んでしまう。



そんな状況の中で誰があたしなんか気にかけるのだろう。



みんな、自分のことで精一杯なんだ。


……それはあたしにだって言える。




たどり着いたのは、かつてあたしが寝泊まりしていた場所。


いまは追い出されて、違う部屋で過ごしている。


人との接触を避けるようになった彼は、もうしばらくの間部屋から出てきていない。



「沖田さん、」


返事は待ってもこなかった。


最初のうちは、まるで入るなと言うように返事がかえってくることはなかったけど


最近ではそんなこともなくなっていたのに。



なんとなく嫌な予感が胸をよぎって心拍数が上がっていくのが分かる。



「……入りますね」


ふすまを開けると部屋の真ん中で、昨日と変わらない体勢で目を閉じていたから、震える手を無理矢理抑え込んで中へと入った。




「沖田さん……、あ…」


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