傷だらけの君は
肆ノ巻
ろくに外を出歩くことも許されないあたしは、昼間することもない。
傷ついた隊士たちを治すといっても、常に怪我人が出ているわけではなく、客足がぱったりと途絶えることも多かった。
隊士たちも極力、怪我には気を遣っているようで、時には誰とも話すことなく一日を終えることだってある。
藤堂さんに話しかけられたのは、そんな日が続いた夜のことだった。
「やあ、紅」
「こんにちは」
廊下で出会った藤堂さんは、団子を食べていた。
しばらく姿が見えなかったから、きっとどこかで買ってきたんだろう。
その団子を見ているうちに、あたしはあることを思い出す。
最後に甘味を食べたのは、父様に連れられてだっけ。
たしか近くの甘味処であたしは団子、父様はあんみつ。
もう随分と昔のことだけどあれが一番の贅沢だったから、よく覚えている。
あのときは父様も優しくて、分けてもらったあんみつも美味しくて……本当に楽しかったな。
「紅、これ欲しいの?」
そう聞かれてはっと我に返る。
いけない、勘違いさせちゃった。