傷だらけの君は



今夜は綺麗な満月だった。


外に出ると男は思いのほか美丈夫で、その長い黒髪を揺らしながら歩いていた。


家に着くまではお互い無言で、たまにあたしが道案内をするくらい。



無事家に着いたあたしは、家の前で降ろしてもらった。



「ありがとうございました。謝礼をお持ちしますので、少々お待ちください」


「いい、いらない。じゃあねお大事に」


男は興味なさそうにそう言って、くるりと踵を返した。


変な人だな。

あたしが言えたことじゃないけど。




「ありがとうございました」


あたしはもう一度お礼を言って、頭を下げた。



浅葱色の羽織をなびかせながら立ち去る、その後ろ姿に。



< 6 / 253 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop