傷だらけの君は
今夜は綺麗な満月だった。
外に出ると男は思いのほか美丈夫で、その長い黒髪を揺らしながら歩いていた。
家に着くまではお互い無言で、たまにあたしが道案内をするくらい。
無事家に着いたあたしは、家の前で降ろしてもらった。
「ありがとうございました。謝礼をお持ちしますので、少々お待ちください」
「いい、いらない。じゃあねお大事に」
男は興味なさそうにそう言って、くるりと踵を返した。
変な人だな。
あたしが言えたことじゃないけど。
「ありがとうございました」
あたしはもう一度お礼を言って、頭を下げた。
浅葱色の羽織をなびかせながら立ち去る、その後ろ姿に。