傷だらけの君は
手当も終わり、着物の胸元から先ほど足を治した男からもらった銭を出す。
骨折だと分かっていたら、もう少し多くもらってたのに。
次からは気をつけて観察しなきゃ。
とりあえず明日、父様に渡そう。
喜んでくれるかな、この前みたいに『少ない』って叩かれなきゃいいけど。
その時ふと、ある一首が頭の中に流れ込んできた。
「君がため、惜しからざりし命さへ……続き、なんだっけ」
町で聞いたこの歌は、子供たちが百人一首をやっているときに知った。
その日も仕事の帰りで、あたしの耳はほぼ聞こえなかった。
だけどそんな耳にはいってきたその歌は、なぜかあたしの心に留まっていた。
「……惜しいとは思わなかった命、か」
あたしは命を粗末にしようとは思わない。
死にたいとも思わない。