哀しき野良犬
「付いて来ないでって言ってるでしょ!」

彼女のヒステリックな声がして、そちらを見ると、彼女が中年の男と一緒に改札口を出
て来た。
地味なスーツ姿の男は、恐らく彼女の父親だろう。
俺は男に軽く頭を下げた。

「君が一条修平くんか」

男は怒ったような口調で言って俺を睨み付けた。

「今日かぎり娘とは会わないでくれ。おなかの子供は今週中に堕胎させる。二度と娘の前
には現れるな」

「パパっ! 何言ってるの!」

「目を覚ませ! こんな男と一緒になってオマエが幸せになれる道理がないだろう!」

「修平がいなかったら私は今頃どうなっていたか分かんないのよ! 勝手なこと言わない
でよ!」

「君も娘の幸せを願うなら、黙って身を引いてくれ」

男にじっと見つめられた。
ぞっとするほど冷たい眼差しだった。
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