妄想の恋が実現した結果。
いやいや現実世界に戻る。
もしかしたらさっきの会話はいつもの妄想だったかもしれない。
目を開けると真っ白な天井が見える。ベッドのそばにはお父様と綾斗、例の女性がいた。
「あ、香織!目が覚めたのか!?」
お父様が駆け寄ってきた。綾斗と礼の女性はさっきまで寝てたよう。慌てて飛び起きた。
「お父様、迷惑かけて申し訳ございませんでした。
先ほど寝ていた時にお母様に叱られました。会社やお父様に迷惑をかけるなと。
本当に申し訳ございませんでした。」
「そんなのいいよ。香織が生きて戻ってくれれば何事もないよ。
ほら、心配して綾斗くんと詩織さんもずっといてくれたんだ。
ほんとこの1か月香織がいなくなるんじゃないかって心配したんだからな!」
「そ、そうですか…
綾斗、詩織さんお見舞いどうもありがとうございます。
ですが詩織さんはおろか綾斗とはもう縁はありません。
立花綾斗さん、松田詩織さん、この通り私は大丈夫なのでお帰りください。
そして二度とこないでください。
立花綾斗さん、今までありがとうございました。どうぞお幸せに。」
泣きそうになりながら必死で涙をこらえた。
お父様は何も言わずに泣き止むまで胸を貸してくれた。
泣き止んだことを確認するとナースコールを押して目覚めたことを報告した。
すると綾斗の時にもいたあの医師とまた別の人が入ってきた。
「こんにちは。綾斗の父です。」
「あ!こんにちは!!ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません!
ですが、もう婚約は破棄しました。」
「君が退院したら話があるんだ。ではまた。」
そう言い残し、お父様と一緒にでていった。
「じゃあ、ちょっとした問診をするよ。
ああ、初めまして医師の立花です。」
あれ?立花って…
「ああ、なんで?って顔をしているね。
僕は綾斗の叔父だよ。綾斗の父の弟だ。前にもあったよね?」
「そうですか。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
「いやー君と綾斗を見ていると昔を思い出すよ。
ほら、君の両親。ほんとにこんなことがあったんだよ。」
「え!?ほんとですか!?」
「ああ、また今度お父さんに聞いてみるといいよ。
じゃあ問診は終わり。しばらく寝ていて足が動かないだろうからリハビリをしようか。
多分退院は歩けるようになってからだね。」
そ、そんな…綾斗のお父様からお話を伺わなければいけないのに…
そして長い入院生活が終わり家に帰る道中。
「ねえ、鏑木。以前お父様から聞いたのだけど、お母様って歌を歌ったんでしょ?
お母様はどんな方だったの?」
「そうですね…とても性格はお嬢様にそっくりですね。
歌声がとてもきれいな方でした。」
「へえ。私も聞いてみたかったわ。」
「お嬢様も聞いたことがありますよ?」
「え?」
「ほら、以前旦那様が歌っていらっしゃった歌。
あれはお嬢様の眠り歌でした。
覚えていらっしゃらないですか?」
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