シンデレラと野獣
 荒らされた部屋を片付けようとしたが、由紀にそれを止められた。

「いや、危ないでしょ。康にお願いして、掃除サービスの人にお願いしなよ」

「でも、そこまでお世話になるわけにはいきません」

「だからって、女の子が一人で危ないって」

 犯人が戻ってきたりしたらどうするの?とまるで過保護な母親のようだ。

 甘えることがなかった優香にとって、由紀みたいな反応を返されると、どうしたらいいのかわからなくなる。

「ですが……」

「俺が、付き合う」

 困っている優香を助けるように、康が名乗り出た。

「いえ、悪いです。私一人で大丈夫ですから……」

「さっき、由紀が言っていた通り地主たちの集まりのパーティーが来週の日曜日にある。それの衣服の調達をするのに、一緒にいた方が効率がいい」

「ですが……」

 康の言葉を聞いて、由紀はピンときたように「そうだよ。何十万っていう着物を着ていかなくちゃいけないしね。優香ちゃん、それ自分で用意できる?」と言葉を重ねた。

 確かに何十万もする着物など持ってもいないし、用意もできない。そもそも、そんな高価なものを着るのは申し訳ない。

「康は、ここら辺近隣を仕切る大地主だよ?そんな人の恋人が、まさか数千円のペラペラの洋服を着て行ったら、それこそ顔に泥を塗ることになるんだからね」

 優香の言いそうな言葉を遮るように、由紀が言った。

「そ、それは……」

「優香ちゃん。康の恋人を演じるんだから、慣れて」

「決まりだな。午前で片付けるぞ」

 電話を一本かけて、康は掃除サービスに電話をかける。危ないところはプロにお願いすればいい。


< 22 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop