シンデレラと野獣
華を伯母さんの家に預けた後、二人は優香の部屋へ急いだ。
業者の手伝いもあったおかげか、部屋は午前中に片付いた。
鍵も直したのだが、康の提案でもうしばらく彼の家に居候することになった。その方が、親戚や他の人間から見てもカモフラージュが効くということだった。
優香は、最低限の荷物だけまとめ、康の車のトランクに詰め込んだ。
「あの、ありがとうございます」
康が支払ってしまったお金を返そうと、優香は財布から諭吉を何枚か取り出したが、康はそれを受け取らなかった。
「別にいい」
「ですが……」
「大事な時間をもらうんだ。そのくらい支払うのは当然だろう」
康はアクセルを踏んで、車を発進させた。次は銀座に向かうらしい。昔から、康の家で贔屓にしてきている着物屋で来週のパーティーの着物を買うとのことだ。
一体どのくらいの値段になるのか、皆目見当もつかない。日本人ではあるものの、着物を着た記憶があるのは父と母が生きていた七五三の時くらいだ。
優香は、運転している康の横顔をそっと見つめた。
第一印象は冷たい印象を持っていたものの、よくよく話をしてみると優しい。
それに、見た目も端正な顔立ちに程よいがたいをしており、身長も高い。きっと、優香でなくても康は引く手数多なのだろう。華という存在がいたとしても、彼と付き合いたいと思う女性は多いはずだ。
「あの、一つ質問してもいいですか?」
「なんだ?」
「私たちの契約は……いつまで続くのでしょうか?」
ふと湧いた疑問を、優香は康にぶつけた。
ここまでお金をかけてもらって、私は愛されているなど惨めな勘違いをしないように自制が必要だ。
それに、優香は自分の父親の会社をまきから取り戻さないといけない。
今の状況ではまきにいいようにされっぱなしで、言っているだけになってしまっている。
擬似とはいえ、恋愛に割いている時間はないはずなのだ。
「期間を決めていなかったな……」
思い出したように康が言い、少し考え込んでいるようだった。
車の中に沈黙が流れる。元々、由紀にそそのかされて勢いで決めた関係だ。
契約と言っても男女のこと、こじれる前にしっかりルールは決めておく必要があった。