シンデレラと野獣
「二ヶ月だ」
しばらくの沈黙の後、康が口を開いた。
「二ヶ月後に、地主同士の大きなパーティーがある。それまで付き合ってくれるとありがたい」
「わかりました」
それ以降はお互いに話をしなかった。首都高を通り、水道橋、日本橋を通って銀座に到着したあと、衣康の後を追って目的の呉服屋まで急いだ。
昔から御用達だという呉服屋に入るなり、「まあまあ、お久しぶりです」と愛想のいい女店主が二人を出迎えた。
「この女性に何枚か着物を用意してもらいたい」
「承知しました。すぐにご用意いたします」
松田と書いてある名札をつけた女性は、優香を見ると「お好みの色はありますか?」と尋ねた。
「いえ、初めてなんです。何か似合うものを……」
「若草色なんか似合いそうですね。寒色系と暖色系は一枚ずつお持ちいただいて、あとは好みでお選びいただいてもいいかと思います」
自信なさ気に答える優香に、松田は愛想のいい笑みを浮かべ丁寧に一枚一枚着物を出していく。
「集まりに出ても映える色にしてくれ」
康の注文にも松田は「承知しました」と変わらずに笑みを浮かべて、優香に合いそうな着物を出していった。
結局選んだのは、松田が選んだ若草色の着物と、臙脂色と茶色の着物だった。
優香の肌はイエローベースとのことで、青や紫いろの着物はあまり似合わなかったのだ。
たっぷりと刺繍の入った着物の他に、帯と、帯どめと草履と購入していく。いったい金額はいくらになるのだろう。
不安そうな表情を浮かべている優香に「気にするな。こちらの都合だ」と康は再び言った。
財布の中からブラックカードを取り出して、康は「荷物は郵送してくれ」と注文し、優香に次の店へ行くように促した。
「次はどこに行くんですか?」
「化粧売り場だ」