シンデレラと野獣

 次の日、出社すると、誰しもが何事もなかったかのように優香に接してきた。

 机も元に戻っており、一体何があったのか不安になるほどだった。

 しかし、脳裏に浮かんだ疑問がこびりついては離れない。ずっと父が残した会社を取り戻し、消えてしまわないように大切にすることが一番だと考えてきた。

 家族の絆の片鱗を集めては、無理につなぎ合わせて、自分の心が疲弊していく。穴だらけで隙間風が通る心を必死に温めて、何が残るのだろう。

 擬似ではあるものの、康や華と過ごす時間は楽しい。

 楽しいからこそ、気がついてしまった部分があった。

 大量に買ってもらったブランド物。

 確かに、擬似恋人で、役目を果たす必要があるからこそ、投資をしたのだということはわかる。

 康が優香に対して向ける視線ではなく、優香は康が華に向ける視線を思い出していた。

 愛おしい大事な人だということが一目瞭然だ。お互いに信頼して、生活を送っている二人は、本当の親子よりも親子らしかった。

 まきもありさにもないものだった。

 期待しているわけではないと思っていたが、どこかしら「家族なんだから」という言葉に、期待する心が生まれていたのかもしれない。

 離れた方がいいのだろうか。思ったところで踏ん切りがつかない。

 家族の思い出を、唯一の残ったものに固執する心が、簡単に消えるはずもなかった。
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