シンデレラと野獣
仕事から戻った康は、静まり返ったリビングを見て、普段はソファーでくつろいでいる華の姿を探した。
廊下に出て「華?」と声をかけるが返事はない。もしかしたら、自分の部屋にいるのかもしれないと、彼女の部屋に向かって足を運ぶと、客間の方から楽しそうな声が聞こえてきた。
「優香さん、このオレンジの方が綺麗に見えるよ!絶対、こっちのリップの方が可愛い!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!こっちの洋服とこのメイクで合わせたら、絶対可愛い!着てみて」
「じゃあ、着てみようかな……」
ノックをして、ドアを開けるとバッチリメイクをして、先日買った大量のプレゼントに囲まれた擬似恋人と姪っ子が驚いたように康の存在を捉えた。
「何を……やっている?」
「やばい!優香さん、逃げろ!」
華が優香の手を引いて逃げようとするが、一つしかない部屋の入り口に康が立っているため逃げることはできない。
「あの……すいません。勝手に、使って」
「違うの!私が優香さんにメイクしてってお願いしたの!怒らないであげて」
華が優香を守るように前のめりになって、弁解した。
普段、康は小学生が化粧をすることを快く思っていないことを知っていた上で悪戯した自責の念があるのだろう。それに、優香を巻き込んだことも同様に。
「今すぐ化粧を落としてこい。華には、まだ必要ない」
「……はい」
がっくり肩を落として言う華に、優香はクレンジングオイルとコットンを手渡した。
「化粧を落とすのなんて、少し、大人になった気分」
「華」
「はい……」