シンデレラと野獣

 あれからずっと康のことを意識している。表面上は普通に取り繕ってはいるものの、ひとりになれば頬を染めている自分がいた。

 落ち着け。あれは、契約上の行為であり、決して本気にしてはいけない。

 飼い犬にキスをするのと同じだ。

 そこまで考えて、優香は少しだけ落ち込んだ。

 擬似恋人というのは、飼い犬と似たようなものだろうか。

「考えるのやめ!」

 もう充分してもらっているではないか。高価な服に、化粧品に、身に有り余る施しをしてもらった。たかがキスをされたくらいで、目くじらをたてる必要はない。

 たとえ、それがファーストキスだったとしても。

 ずっと家族のために動いてきた。正直好きだった男の子はいたが、三回デートに行けなかったら、あっさり振られた。

 父が死んだばかりというのもあり、まきには学校が終わったらすぐに帰ってくるように指示されていた。土日に出かけるなどもってのほかだった。

「あいつ、全然俺と向き合う気ないから」

 放課後の教室で話をしているのを偶然聞いてしまった時には「違う」と駆け込みそうになったのをぐっとこらえた。

 今更フォローをしてどうなるのだと思ったのだ。現状は変えられない。

 今となっては甘酸っぱい、いや酸っぱさが勝る過去の恋愛も懐かしいの一言で終わらせることができる。

 この擬似恋人に関しても、同様に気持ちのコントロールができるだろう。

 
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