Silver Night-シルバーナイト-
それに気が付いたらしい琉聖が、女の人を見下ろしていた視線を私へと移し後ろへと振り返る。
「…………」
「琉聖、帰ろう」
胸の奥の鉛は、琉聖の影に隠れたからといって無くなってはくれなくて…
早くここから立ち去りたい。
そして家に帰ってベッドで一晩寝たらきっと治る。
「…帰ろう」
何で琉聖がこんなに彼女を見つめているのかは分からないけれど、もしかしたら一目惚れでもしちゃったのかと初めは思ったけど…どうやらそんな感じではない。
その表情は無表情で、良いものとは思えなくて。
「帰ろう」と小さく呟き続ける私に、琉聖は何かを感じたのか…私の腕を掴むと歩き出した。
梓の顔は見ていない。
もう、今は見れないと何となくそう感じたんだ。
目の前には琉聖の大きな背中。
後ろからは悠真と佑衣が付いて来てる。
梓の声は聞こえなかったけれど…
さきほどの彼女が遠くで「……梓…会いたかった」と可愛く呟いた声がやけに耳にこだました。