Silver Night-シルバーナイト-
「…でも、眠くなくて」
うつむくようにして笑って見せると、伊吹さんは持っていたコーヒーをダイニングへと置いてソファーで待つよう言ってくる。
言われ通りソファーに座っていると、しばらくして甘くて優しい香りがするホットミルクを私に持ってきてくれた。
それをゆっくり口に付けると、やけにホッとした気持ちになる。
蜂蜜とミルクの優しい味。
「琉聖さ、さっきまで起きてたんだよ。」
「え…?」
琉聖が起きてた?私が部屋に行く時、確かに琉聖も自分の部屋に入って行ったはずなのに。
「莉愛ちゃんが起きてくるかもしれないって。その時一緒にいてあげたいからって」
あれからずっと……起きててくれたの…?私の為に。
「アイツ、見かけによらず優しいよな。莉愛ちゃんが心配で仕方ないみたい」
どこか楽しそうに目尻を下げた伊吹さんは「俺、朝方帰って来たんだ。だから少し寝るね」とそう言って爽快にリビングから去って行った。
ホットミルクを飲みながら、昨日の事が頭をよぎる。苦しさと悔しさでぐちゃぐちゃになった自分が。
だけど今こうして、泣かずにいられているのは……きっと琉聖がいてくれたから。
琉聖の優しさが心に届いたから。私を一人にしないでいてくれたから。