冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 テレンスの言葉が正しければ、この前のようにウォルフレッドは助けには現れない。自分の力で状況を打開しなくてはならないのだ。

 城の内部の構造にはまったくの無知であるため、どこをどう走ったのかわからないまま、フィラーナは気づけば明るい太陽の下に出ていた。警戒心からサッと近くの物陰に身を潜めていて辺りを窺う。

 そこは城の搬入口のようで、ホロ付きの荷馬車が停まっており、恰幅のいい四十代くらいの男ふたりが荷台部分から三、四個ほど木樽を降ろして手押し車に載せ、城の方へと運んでいくのが見えた。

 誰もいなくなり静寂が訪れたのも柄も間、城内部から衛兵らしき靴音がいくつも重なるように響き、慌ただしくこちらに近づいてくるのが分かった。

 フィラーナは咄嗟に、近くに置かれていた幾つかの樽のうち、蓋を空けて中身がないものを見つけた。急いでその中に潜り込んで、再び蓋を載せる。

 バタバタと靴音が通り過ぎるのを息を殺してやり過ごしごしていると、遠くで人の声が聞こえた。どうやら衛兵が、先ほどの手押し車を運んでいた男たちに、怪しい者を見なかったかと尋ねているようだ。男たちは知らないと答えたのか、やがてその衛兵も立ち去っていく気配を感じた。

 あとは、荷馬車が出発して男たちがいなくなるのを待ち、そっとここから出よう。そう考えていたのだが、戻って来た男たちがフィラーナの周りの樽を動かすような音が耳に入った。それが荷台に樽を積み込んでいる作業の音だと確信する。
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